衛生ゴアグラインド

本、人形、素体

悲しみの記憶に触れる旅『ダークツーリズム入門』『ダークツーリズム』

ダークツーリズムというものを知ったので。

ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅

ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2017/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

読了。

戦争、虐殺、貧困、差別、核など負の側面を持った土地を観光するダークツーリズムとそれに適した土地の紹介。広島にあるうさぎが沢山いるおしゃれスポットが実は毒ガスを製造するため地図から消されていた時期があると聞き、断然行きたくなった。ガスマスクしたウサギグッズとかあったら欲しくなるけど、多分そういうものは無いんだろうなぁ…。 ダークツーリズムのスポットライトでは成田空港(成田闘争があったから…)と足尾銅山は行ったことがあります。

 

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

  • 作者:井出 明
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/07/30
  • メディア: 新書
 

読了。

さっきの本よりももう少し踏み込んでいる(文字がメインだしね)。

負の側面を持った土地を観光する…と書いてしまったけれども、悲しみの記憶を巡る、継承するのがダークツーリズムと云うのが正しいかな。

加害者の親族子孫もいるから、取り上げるのは慎重に、そしてダークツーリズムな場所かと思ったらそうじゃなかった場所(蚕糸産業)などもちゃんと載せていて、妙なところで好感度大。ダークツーリズムが浸透しやすく、プロパガンダに使用しようとした国もあったけど、そこはやはり国民以前に個人…上手くいかなかったという話も興味深い。思想のバランスや言葉選び、伝え方がフラットな印象なのでショッキングな場所を扱いながらも私は厭な印象を持たなかったのも良い印象。

人形作家の人の事『人形作家』

時間を置いて再読すると発見があるね。 

人形作家 (中公文庫)

人形作家 (中公文庫)

 

読了。

人形作家・四谷シモンの自伝。だいぶ昔に講談社新書で読んだことがあったけど、こちらは文庫版。書き下ろしで金子國義がお亡くなりになった事について触れている。私の知識が深まった結果、交友関係の記述が嬉しい。宇野亞喜良とか金井美恵子とか。

 

だいぶ前に読んだ割りには父親から絵の具を貰って捨てた話とベルメール人形を知って今までの人形の材料を捨てた話は覚えていた(後者は有名なのもあるけど)。

ベルメールの動く、動かせる人形に関連して内藤ルネが球体関節のアンティークドールを持っていた話があり、これは覚えていなかった…となりました。アンティークドールは管轄外なもので…あと、レザーやクロスボディだと思っていたよ…。

あと本当に個人的ではありますが、北区王子付近の話は「だいたいあの辺かな?」と見当が付くのがなんだか嬉しい。

それだけ以前読んだときよりも知っていることが増えたんだな…。

 

フランス滞在中のエピソードで、掃除をしてくれた女性にイミテーションの真珠のネックレスをプレゼントしたら、買い付けたアンティークドールに名前を付けてくれた話が出て来た。

名付けなるものは人形の個性の見分けが付くから出来るもので、「人形を愛するということは、そういう一見当たり前のなんでもないところに現れてくるのだと実感しました」と書いてある。人形への愛情は人それぞれだけど、こういうのはなんだか嬉しくなります…私は人形と暮らしているから。

繕い裁ち、教える人生『台湾少女、洋裁に出会う』

洋服と働く女子の話しなんだから、期待大。

台湾少女、洋裁に出会う――母とミシンの60年

台湾少女、洋裁に出会う――母とミシンの60年

 

読了。

日本統治下の台湾で日本の婦人雑誌『主婦之友』『婦人倶楽部』に付いていた洋裁ページと出会い、洋裁を独学で学び、お針子さんをしたり日本に留学したり、台湾で学校を開いたり、あれやこれやの洋裁人生!…を息子が語った本。

著者のお母さまが台湾人女性の洋裁教育にも力を入れていた様子は「働く女子の話ってグッときちゃうね…」という気持ちになるし、写真も時代を追うごとに素敵になっていく。

若いころのおめかしして楽しそうにしている様子も可愛いのだけど、晩年の姿もおしゃれさんなのがとても良い。やっぱり装う楽しみはあったほうがいいですよね。

 

台湾の政治的、歴史背景的な話は最小限なんだけど、やっぱり戦争の話は出てくる。あと意外なところでは統治下でも日本人になりたいとは思わなかったどころか、日本的な名前も強要されなかったとのこと。場所や立場によるのかしら?

あと、戦時中に強要されたモンペはクソダサいと思っていたようですが、それは台湾も日本も一緒のようでした。私もあれは厭だ。

 

意外なところでは日本の流行は欧米の後追いでありながら、少なくともアジアの女性向けに手直しがされていて、台湾の女性が日本のファッションをお手本にしたという話が出てきて、意外なところで評価されているんだな…という気持ちになりました。

家族が語り始めたあの人は『父 中原淳一』『夫 中原淳一』

作品と作者は別に考えろといえども。

父 中原淳一

父 中原淳一

 

読了。

息子が語る中原淳一のこと。性的なものを嫌悪し、女性の心を持ち、女性を憎み(例外あり)、描いた少女たちは本人のあるべき姿…という様子が浮かんでくる。

家族についても愛したときとソウジャナイ時期の落差が激しく、周囲の人間は辛かったのでは…という気持ちになる。中原淳一の本を読んで「素人の女性相手に厳しいこと書きすぎでは?」と思ったを友人に云ったら教えて貰った本。

ホラーだと聞いていたけど、本当だった。家が死人が出ないファニーゲームみたいになっている。

 

 

夫中原淳一 (平凡社ライブラリー)

夫中原淳一 (平凡社ライブラリー)

 

読了。

これ、出版したんだ…中原淳一、亡くなっているしな…というほど、中原淳一モラハラっぷりとその妻・葦原邦子(著者)のDVされて頭回らない女子っぷりがすごい。

暴言の数々を「私が妻として至らなくて…」という口調で語られていて、読んでいていて辛い。

芦原邦子が小説を書いて送って、さあ、発表!となったら、中原淳一にバレて「いいかげんにしなさいッ、恥さらしなことを平気でやる。女は下等生物だよッ」って云われるんですよ…。芦原邦子はというとポカンとして、気持ちを傷付けたのは確かだし叱られるのはこたえたし、謹慎しようと思ったとか、暴言吐かれてもだいたいこんな感じ。

ね?DVされて頭が回らない女子みたいでしょ?暴力はされなかったみたいだけど、モラハラですよ、これは。

 

この2冊を読んで導き出されるのは「中原淳一、酷ぇ…」以外の何物でもない。

思えば女性におしゃれや素敵な生活を説けども、自立云々は知る限りではなかったはず。時代背景もあれども、実の娘にも「働かないでいいお嫁さんをしていればいい」みたいなことを平気で云うし、芦原邦子の仕事にも口出しをする様子は今まさに絶滅せんとしているが、まったく保護する必要がない田舎の老害ジジィそのものだった。

 

 

事の始まりはこの一冊。

新版  中原淳一 きもの読本 (コロナ・ブックス)

新版 中原淳一 きもの読本 (コロナ・ブックス)

 

着物が着たいし、中原淳一だし…と思って手に取ったら、素人相手でも容赦なく厳しいことをおっしゃる。日本人は着物が似合うという話に持っていくのに洋装で白人に混ざったら美人の日本人でもイマイチみたいな話を平気で書くのに、げんなりした。

よく考えてみたら、昔から素人に厳しい書き方はしていたけど、社会や自分の価値観の変化なのか昔は気にならなかったのに、すごく気になった。読んでいて素敵な気持ちになれると思って手に取ったのにな…。

 

この本には洋服生地で作る着物も掲載。ただし衽(おくみ)がなく、着物の形をした不思議な服で、そのことについては「(反物でないのに)衽をわざわざつくるのは形式だけまねて元の意味から外れた愚かなこと」といいきっている。

私がしていること(洋服生地で着物を作る)はインチキだと割り切っているけど…思えば遠くへ着たもんだー。

私と身体と世界の違和『私はすでに死んでいる』

今年も好きな本に出会えたらブログを更新します。

更新できていないときは読んだ本が面白くなかったか、忙しくて更新できていないか、本を読んでいないかのどれかです。

読了。

コタール症候群、認知症統合失調症離人症などの症例の紹介と当事者への取材。

中でも貴重なのは身体性完全同一性障害(BIID)の当事者への取材。身体性完全同一性障害(BIID)は四肢切断願望っていうと通じるかな…。

本文によると事例が少ないのと、医師の間でもあまり認知されていないものというのもあるとのこと。電極を使った検査でBIID患者の皮膚コンダクタンス反応をみたら切断したい場所では反応が明らかに違った話もあって、このBIIDの章はかなり読み応えがあった。

解説は私が最も好きな作家でもある精神科医春日武彦。四肢切断願望(本書ではBIID)についてはアングラにおけるいかがわしいアブナイ趣味の一つであることは知っていたけどフィクションに近い話かと思っていたので、本書で紹介があって驚いたという趣旨の事を書いていた。私も驚いた…。

また西洋と日本の違いの補足にもなっているので、解説まで読み物として楽しかったです。

 

余談になりますが、マッサージ師が離人症の人にヨガを薦める話があったけど、これ、結構怖いなぁ…。

その離人症の人には合ってたから事故には繋がらなかったけど、適切な治療を奪うケースに繋がる行動は良くないと思っているので。

2019下半期ベスト10冊&2019ベスト10冊

下半期ベストです。

下半期112冊中、面白かった本はこちらです。

 

臨床の詩学

臨床の詩学

 

読んだ後にずっとじわじわきて「嗚呼、好きだなぁ…」となった本。

マイベストオブ春日武彦でもある。

互いに人間『臨床の詩学』 - 衛生ゴアグラインド

読書と言葉と私とこの世 - 衛生ゴアグラインド

 

 

テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム

テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム

 

テトリスに現実にこんなにドラマティックな瞬間と、ダメすぎる国の様子を知ることができる面白さがあったなんて!

鉄のカーテンの向こうから『テトリス・エフェクト』 - 衛生ゴアグラインド

 

小鳥たち

小鳥たち

 

幻想文学と人形の最高に素敵な関係。

我が家にこの『小鳥たち』の特装版特典の人形がいることも今年の良かったことの1つです。

小鳥にして少女『小鳥たち』 - 衛生ゴアグラインド

 

ひみつの王国: 評伝 石井桃子 (新潮文庫)

ひみつの王国: 評伝 石井桃子 (新潮文庫)

  • 作者:尾崎 真理子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/03/28
  • メディア: 文庫
 

とてもカッコいい働く女子の話。

太宰治に靡かなかった&「私なら太宰を死なせない」なんてカッコよすぎじゃないですか?これ、序の口ですけど。

101年の人生『ひみつの王国』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

亡命ロシア料理

亡命ロシア料理

 

酔っ払いロシア人がアメリカの料理をディスったり、故郷の料理を懐かしむ様子を面白おかしく書いた本。各章のタイトルがややコルピクラーニ(別にロシアのバンドではない)

捨てた故郷の味『亡命ロシア料理』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

アウシュヴィッツの歯科医

アウシュヴィッツの歯科医

 

手に職は身を助けるんだなぁ…という気持ちになるし、割と人に恵まれた感じでもある。

運と技術と『アウシュヴィッツの歯科医』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

 

上司がだめで優秀な部下が酷い目に遭う、最悪死ぬのは悪しき伝統。

反抗して生きて帰って『不死身の特攻兵』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

絢爛たる屍 (文春文庫)

絢爛たる屍 (文春文庫)

 

残酷なのが好きです!でも話がちゃんとしていないと厭です!というわがままを勢いと血と内臓で叶えてくれるリョナBL。

いたのかよ…ワタシみたいな変態が『絢爛たる屍』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

 

 今年読んだ本で一番笑ったけど、こんなこと子供はさせられないといけないのか…とどんよりもする。

不道徳、ゆえに真面『不道徳お母さん講座』 - 衛生ゴアグラインド

 

裁かれる大正の女たち―「風俗潰乱」という名の弾圧 (中公新書)

裁かれる大正の女たち―「風俗潰乱」という名の弾圧 (中公新書)

 

ジェンダーギャップが今以上に最悪な頃の話。

大正ロマンが好きでも、大正時代に生まれなかったことを後悔しなくていいんですよ。

生まれて不遇『裁かれる大正の女たち』 - 衛生ゴアグラインド

 

以上、2019年下半期のベストでした。小説は『小鳥たち』『絢爛たる屍』のみなのがとても私らしいと思います。

 

hikimusubi.hatenablog.com

 

そして、2019年のベスト10冊です。

 

春日武彦『臨床の詩学

ダン・アッカーマン『テトリス・エフェクト』

山尾悠子+中川多理『小鳥たち』

イェジー・コシンスキ『ペインティッド・バード』

湯澤規子『胃袋の近代』

堀越英美『不道徳お母さん講座』

ピョートル・ワイリ、アレクサンドル・ゲニス『亡命ロシア料理』

ポピー・Z. ブライト『絢爛たる屍』

勝目梓『死支度』

サーバン『人形つくり』

 

今年は時間を作ったので、本を295冊読むことができました。

またたくさん本を読んで楽しい本に出会いたいです。

不道徳、ゆえに真面『不道徳お母さん講座』

久しぶりに本を読んで爆笑した。

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

 

読了。

「どうして、読書だけが推奨されるんですか?」から始まる道徳や母性、自己犠牲は如何にして作られたかについて。日本で教育を受けた人がほぼ通ってきた「ごんぎつね」の話や組み体操、そして最近の話題では1/2成人式などが著者、そして著者の娘さんの鋭いツッコミにより異様さを浮き彫りになる1冊。

 

このね、鋭いツッコミがツボで爆笑しました。

「ごんが栗や松茸を運んだのはなぜですか?」と問われて「性器のメタファーだから」などと答えたら小説解読以前に社会生活が危うい。

 これを筆頭に出てくる、出てくるキラーフレーズ。村を焼く少女小説が人気、群読(「楽しかった」「臨海学校」とかそういうのね)では事件簿だって入れたっていいんじゃないか「クラス一丸となって隠蔽した」「いじめ事件」とか…と内容は真面目だけれども笑わせてくる。そうだね、フィクションにおける暴力は良いよね!

他にも巌谷小波版の桃太郎では犬がいきなり「かみころすぞ、ゴルァ!」という趣旨のセリフあったり、雉は鳥類離れしてしている殺傷力があって「お前は、ラドンか!」となるし、桃太郎も桃太郎で鬼の首を切断して持って帰って瓦に飾って本当の鬼瓦にすると啖呵を切ったり、山本タカトの絵が似合うような残酷さ加減。

 

高校までのあの学校の作られた胡散臭い健康的な感じが大嫌いでしたが、かといって不健全なものを持ち込んでは教育に悪すぎることはわかってはいる。著者も野坂昭如『骨餓身峠死人葛』を持ち込んで音読してはいけないのはわかっている。だがしかし…なのだ。

そして1/2成人式と云う感動の押し付けはみんな負の意味の注目の江戸しぐさのあの団体が推奨しているという話を聞くと、この世は避けて通りたきものしかない道を通らざるをえない気持ちになり憂鬱になる。

憂鬱にはなるものの、最後にかこさとしの話が一瞬出てくるのが良かった。子供の事を感動搾取の対象ではなく、ちゃんと考えてくれる人もいるというのは子供にとって救いでもあり、上手く出会えることもあるのだ。