衛生ゴアグラインド

本、人形、素体

2019下半期ベスト10冊&2019ベスト10冊

下半期ベストです。

下半期112冊中、面白かった本はこちらです。

 

臨床の詩学

臨床の詩学

 

読んだ後にずっとじわじわきて「嗚呼、好きだなぁ…」となった本。

マイベストオブ春日武彦でもある。

互いに人間『臨床の詩学』 - 衛生ゴアグラインド

読書と言葉と私とこの世 - 衛生ゴアグラインド

 

 

テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム

テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム

 

テトリスに現実にこんなにドラマティックな瞬間と、ダメすぎる国の様子を知ることができる面白さがあったなんて!

鉄のカーテンの向こうから『テトリス・エフェクト』 - 衛生ゴアグラインド

 

小鳥たち

小鳥たち

 

幻想文学と人形の最高に素敵な関係。

我が家にこの『小鳥たち』の特装版特典の人形がいることも今年の良かったことの1つです。

小鳥にして少女『小鳥たち』 - 衛生ゴアグラインド

 

ひみつの王国: 評伝 石井桃子 (新潮文庫)

ひみつの王国: 評伝 石井桃子 (新潮文庫)

  • 作者:尾崎 真理子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/03/28
  • メディア: 文庫
 

とてもカッコいい働く女子の話。

太宰治に靡かなかった&「私なら太宰を死なせない」なんてカッコよすぎじゃないですか?これ、序の口ですけど。

101年の人生『ひみつの王国』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

亡命ロシア料理

亡命ロシア料理

 

酔っ払いロシア人がアメリカの料理をディスったり、故郷の料理を懐かしむ様子を面白おかしく書いた本。各章のタイトルがややコルピクラーニ(別にロシアのバンドではない)

捨てた故郷の味『亡命ロシア料理』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

アウシュヴィッツの歯科医

アウシュヴィッツの歯科医

 

手に職は身を助けるんだなぁ…という気持ちになるし、割と人に恵まれた感じでもある。

運と技術と『アウシュヴィッツの歯科医』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

 

上司がだめで優秀な部下が酷い目に遭う、最悪死ぬのは悪しき伝統。

反抗して生きて帰って『不死身の特攻兵』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

絢爛たる屍 (文春文庫)

絢爛たる屍 (文春文庫)

 

残酷なのが好きです!でも話がちゃんとしていないと厭です!というわがままを勢いと血と内臓で叶えてくれるリョナBL。

いたのかよ…ワタシみたいな変態が『絢爛たる屍』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

 

 今年読んだ本で一番笑ったけど、こんなこと子供はさせられないといけないのか…とどんよりもする。

不道徳、ゆえに真面『不道徳お母さん講座』 - 衛生ゴアグラインド

 

裁かれる大正の女たち―「風俗潰乱」という名の弾圧 (中公新書)

裁かれる大正の女たち―「風俗潰乱」という名の弾圧 (中公新書)

 

ジェンダーギャップが今以上に最悪な頃の話。

大正ロマンが好きでも、大正時代に生まれなかったことを後悔しなくていいんですよ。

生まれて不遇『裁かれる大正の女たち』 - 衛生ゴアグラインド

 

以上、2019年下半期のベストでした。小説は『小鳥たち』『絢爛たる屍』のみなのがとても私らしいと思います。

 

hikimusubi.hatenablog.com

 

そして、2019年のベスト10冊です。

 

春日武彦『臨床の詩学

ダン・アッカーマン『テトリス・エフェクト』

山尾悠子+中川多理『小鳥たち』

イェジー・コシンスキ『ペインティッド・バード』

湯澤規子『胃袋の近代』

堀越英美『不道徳お母さん講座』

ピョートル・ワイリ、アレクサンドル・ゲニス『亡命ロシア料理』

ポピー・Z. ブライト『絢爛たる屍』

勝目梓『死支度』

サーバン『人形つくり』

 

今年は時間を作ったので、本を295冊読むことができました。

またたくさん本を読んで楽しい本に出会いたいです。

不道徳、ゆえに真面『不道徳お母さん講座』

久しぶりに本を読んで爆笑した。

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

 

読了。

「どうして、読書だけが推奨されるんですか?」から始まる道徳や母性、自己犠牲は如何にして作られたかについて。日本で教育を受けた人がほぼ通ってきた「ごんぎつね」の話や組み体操、そして最近の話題では1/2成人式などが著者、そして著者の娘さんの鋭いツッコミにより異様さを浮き彫りになる1冊。

 

このね、鋭いツッコミがツボで爆笑しました。

「ごんが栗や松茸を運んだのはなぜですか?」と問われて「性器のメタファーだから」などと答えたら小説解読以前に社会生活が危うい。

 これを筆頭に出てくる、出てくるキラーフレーズ。村を焼く少女小説が人気、群読(「楽しかった」「臨海学校」とかそういうのね)では事件簿だって入れたっていいんじゃないか「クラス一丸となって隠蔽した」「いじめ事件」とか…と内容は真面目だけれども笑わせてくる。そうだね、フィクションにおける暴力は良いよね!

他にも巌谷小波版の桃太郎では犬がいきなり「かみころすぞ、ゴルァ!」という趣旨のセリフあったり、雉は鳥類離れしてしている殺傷力があって「お前は、ラドンか!」となるし、桃太郎も桃太郎で鬼の首を切断して持って帰って瓦に飾って本当の鬼瓦にすると啖呵を切ったり、山本タカトの絵が似合うような残酷さ加減。

 

高校までのあの学校の作られた胡散臭い健康的な感じが大嫌いでしたが、かといって不健全なものを持ち込んでは教育に悪すぎることはわかってはいる。著者も野坂昭如『骨餓身峠死人葛』を持ち込んで音読してはいけないのはわかっている。だがしかし…なのだ。

そして1/2成人式と云う感動の押し付けはみんな負の意味の注目の江戸しぐさのあの団体が推奨しているという話を聞くと、この世は避けて通りたきものしかない道を通らざるをえない気持ちになり憂鬱になる。

憂鬱にはなるものの、最後にかこさとしの話が一瞬出てくるのが良かった。子供の事を感動搾取の対象ではなく、ちゃんと考えてくれる人もいるというのは子供にとって救いでもあり、上手く出会えることもあるのだ。

101年の人生『ひみつの王国』

1週間本を読むうちに1冊でも当たればいいと思っているけど、これは大当たり。

ひみつの王国: 評伝 石井桃子 (新潮文庫)

ひみつの王国: 評伝 石井桃子 (新潮文庫)

  • 作者:尾崎 真理子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/03/28
  • メディア: 文庫
 

読了。

翻訳者で児童文学者の石井桃子のこと。明治大正の浦和に雛人形を送る風習があった他、子供時代の話で私の趣味の分野を擦ってきたり、賢かった姉が進学させてもらえず嫁にやられてしまった事から本人はなんとか進学し独りで生きていくことを決めるなど熱い人生だった。

こんなカッコいい人が私が幼少期に親しんだ本を翻訳したのか…!という嬉しい衝撃。

全7章からなるも、ずっと「プロジェクトX」、女ののど自慢、出版の歴史とも重なり有名な人物が大量に出てくるので、出版社版『窓から逃げた100歳老人』か!となる。

みちのくが生んだイケメンメンヘラ男子:太宰治に想いを寄せられていたけど「訛りが酷いから愛を語れない」と語る一方で「私なら太宰治を死なせないけど」と語る様子が格好良い…カッコいいぜ、桃子!となる。

菊池寛が大学は出たけれど仕事がない才媛たちに仕事を与えていた話があるのだけど、チャーリーズエンジェルスみたい。このチャーリーズエンジェルスならぬKKCKN(菊池寛)'sエンジェルスの話で一瞬だけ谷崎潤一郎の2番目の奧さん、古川丁未子の話が出てくる。本当にこの人は現代ウケしそうな容姿の美女(ネットでは橋本環奈や宮崎あおいに似ていると評判)なのだけど、本文でもはっきりと「美女」と書かれていて、ニコニコしてしまった。私のタイプでもありますよ、丁未子。

 

丁未子に話が持っていかれそうになっていますが、この辺までは戦前の話。戦中~戦後しばらくは女友達と東北で開墾したり、東北と東京を行き来したり、女同士の友情があったり留学したり…とにかく話題がたくさん、濃密な101歳まで生きた石井桃子を著者が石井本人には嫌がられそうな勢いで送る愛のむきだし…表紙のヘンリー・ダーカーに無理やりつなげてくる無茶な事もしてくるけど、日本語感覚を石井桃子訳によって養われた子供時代を持つ者には「こんなにカッコいい人に育ててもらったのか!」という発見が多いことが約束される…かもね!

 

元は友人が最近読んで面白かった本として話題に出してくれたことで知りました。

「働く女子の話だよ」みたいな控えめなまとめだったけれども、とっても格好良かった。

和洋それぞれ『裸形と着装の人形史』『人形の文化史』

人形と暮らしている私が書いているブログなので、人形を扱った本の話もします。

裸形と着装の人形史

裸形と着装の人形史

 

読了。球体関節人形がちゃんと体を作って服も着せてあるのは何故?という所から始まる日本の人形史。

仏像など神事での人形と生活の中の遊ぶ道具としての人形の二部構成。

仏像は話が壮大になったり、水を入れておしっこをさせる仕掛けがある人形(豊作かどうか占うらしい)の話などはピンと来なかったけど玩具としての人形は個人的にしっくりくる。人形は大人の嗜好品という要素もあって、江戸時代に作られた役者を模した人形の存在は初めて知った。

あと、長年存在は知っていたけど、裸体を観る機会がなかったファッションドールの裸体の写真が観られたのは良かった。大学時代に西洋の服装史でどんな服が流行っているか伝える手段で人形を使っていたのは知っていたけど、実は観たことはなかった。

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体の作りがうちのレッタ(ボディが革)とかなり似ている。

 

人形の文化史―ヨーロッパの諸相から

人形の文化史―ヨーロッパの諸相から

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 水声社
  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: 単行本
 

読了。

西洋の文化から論じる人形のこと。私が愛好する人形の分野とは遠いかな…と思う話も多い一方、おとぎ話の持ち主を幸福にする一方周囲に迷惑をかける話に「こんな話もあるのか…」となる。

何人もの専門家が執筆しているのだけど、西洋視点でしっくりくる話が少ないのは、やっぱりある程度日本化してあるからなのかな。別の本で四谷シモンの人形は西洋っぽいけどガチ西洋と並べると日本っぽくみえるとあったし、西洋からやってきたのは確かだけど、だいぶ日本になじんだものなのかも。

ベルメールについての章では19世紀後半のドイツでチューリンゲン地方における大量生産による人形産業が発展し、それを背景にした作家としてロッテ・プリッツェルを紹介。

当時芸術方面のダンスの題材にされるなど、人気を博した作家で作風が今の作家に近い感じ。そして、私が知るのはたぶん初めて。人形と云う表現が現れた時代の話が展開されるのでベルメール人形の生まれた背景を感じることができた。

 

この本の中で一番しっくり来るのが付録として収録された四谷シモンのインタビュー。「動かせるので人形は玩具」「三つ折れ人形のようなお座りするものとか」「人形を作るのは好きだってことはあるでしょうが、結局、寂しかったんでしょうね、子供時代」などの言葉が染みるので、やっぱり私が好きなジャンルの人ではあるのだな…。

澁澤龍彦が紹介したベルメール人形が四谷シモンが今の作風に至るきっかけではあるので、そこから数えても50年と少し…私が好きな創作の、球体関節人形というジャンルはまだまだ歴史を作っている最中なのかしらね。

 

余談

こうして本を読むと知りたいことが増えていく…ハンス・ベルメールに至るまでの話でダダイズムの話もあるからダダイズムについてもう少し知りたいし、やたら取り上げられられるリラダン未来のイヴ』は読みたいと思う(ページ数が多くて躊躇しているけど)。もう1つやたら取り上げられるホフマン『砂男』はだいぶ前に読んでいます。

他にも四谷シモンへのインタビューで「ベルメールの人形はあれは犯罪と云われた」という話もあり、このインタビュー(収録時期が書いていない…)ではまだ、四谷シモンベルメール人形を見ていないとのこと。

 

四谷シモン ベルメールへの旅

四谷シモン ベルメールへの旅

  • 作者:菅原 多喜夫
  • 出版社/メーカー: 愛育出版
  • 発売日: 2017/01/01
  • メディア: 単行本
 

この本では出会うかな?近々読みます。

鉄のカーテンの向こうから『テトリス・エフェクト』

生まれて初めてプレイしたゲームのこと。

テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム

テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム

 

読了。

ご存知ソ連生まれのゲーム「テトリス」の誕生と権利をめぐるノンフィクション。

後半のライセンス問題でのロシア人のターンが痛快。

冷戦期の話なので鉄のカーテンと云う言葉が何度も出てくる。そして「ホテルが壊れているし、おもてなし精神なっしんぐ」「金があっても予約しなくちゃ何も食べられない」「よくわからない臭い食べ物」「運転手が酔っ払っている」「船を出してもらったけど、船の周りで人が歩いている」「突然のゴルバチョフ」等、ソビエト時代の話も充実。

話としてはドラマチックな部分が多いので、映画向きなのですが、映像化の話は来ているみたい。完成しているのかしら?そして、日本で観られるかな?

あと、ライセンス契約の際に日本側の刺客(刺客ではない)がちゃんと金を払って見せたことや、同席したテトリスの加発者と心通じるものがあって交渉がスムーズに進んだことから、営業や契約は「敬意を持って対応する」のが一番大事…と思うなどした。先にも書いた通り、ここからが特に面白いところでもあるのだけど。

 

さて、この本を読んでいるときにチェイサーでテトリスしていたのだけど、本文にも出て来るとおり、東側が西側を堕落させる為に開発したのでは?と思うほど中毒性ありますね…。私が初めてプレイしたゲームは多分パソコン版のテトリスです。多分、PC98シリーズ。

読書と言葉と私とこの世

ちょっと放置気味なのはあんまり本が読み進まないから。

 

先日読んだ春日武彦『臨床の詩学』がじわじわ来ていて、自分が少し野暮ったかったり泥臭いものが好きな理由がわかった気になった。

言葉が、文章が自分から近い(定着している?)ということが、私の中で重要視される部分が大きくて、それは説得力とも似ている気がした。

自分じゃ無くても、文章を書く人もかな。

綺麗なものを書こうと頑張った形跡があるのに、空虚であり響かないことなどいくらでもある。これは作者の中に綺麗さがないのではないだろうか…というのは言い過ぎかしら。

本文中でも顔色が悪い仲間に対して「墓場から出てきた這い出してきてみたいだ」と云っている奴がいて著者は「本当に墓場から這い出てきた人間を見てから言え!」と無性に腹がたったとあるけど、そういうことなのである。

 

野暮ったさ泥臭さは人間臭さと言い換えることも出来るかもしれない。

人付き合いは得意ではないけれども、人とのかかわりの中で小さく社会と繋がったときや小さく世間が生まれたときの喜びと云うのは野暮ったく泥臭いものだと私は思っているから。

 

臨床の詩学

臨床の詩学

 

 

 

互いに人間『臨床の詩学』

好きな作家の本を読む幸せ。

臨床の詩学

臨床の詩学

 

読了。

精神科医の著者による臨床での言葉のこと。著者:春日武彦の言葉への拘りと医者としての患者さんとのコミュニケーションについてでもあるかな。

気取った言葉を使うことや語彙力と呼ばれるものより、タイミングや誰が云うかである部分も大きいよな…となるなど。誰しもを救う万能な言葉はないけれども、文学においてなんとなく安心する話や言葉を見つけることは稀にあるので、言葉を読むことは辞められない。

 

後半の辺境の作法と題された章は医療従事者向けの媒体で発表されたものをまとめているのだけど、境界性パーソナリティ障害については「病人だから仕方ない」とは思えない…という小見出しをつけている。医者ですらそう思うなら一般人は尚更だよな…という気持ちになるエピソードが出てくる。

他にもパーソナリティ障害は何らかの制限が出ることでその症状が軽くなることがあるとのこと。本では体が不自由になり体力が衰えたことによる例があり、時間の経過が大切な様子。たまたま行きつけで「(そんなに今がだめなら)一度事故に遭えばいい」ということを云う方がいたのだけど、その説は案外間違っていなかったのは?という気持ちになる。

また、境界性パーソナリティ障害の人と関わって厭な思いをしたというのは周囲に理解を得られない事が多いとあった。私も元職場でケーキが等分に切ることが出来なさそうな人の言動が耐え難かったので上司に相談したら「診断はされていないけど、ある種の病気をお持ちの方だから」と取り合って貰えなかったのを思い出すなどした。ひでぇな。やっぱり通じてなかったのかよ。

 

私の話はさておき、この本、著者の本音がダダ漏れで面白い。

「黙れ!といって汚い靴下を口に突っ込みたくなる」「何がプライドが傷付いた、だよ。うるさいんだよ」と患者さんに対して思ったこと等がキレッキレで書かれている。思わず笑ったのは「性器を露出させると罪になるけど、内臓を剥き出しにしても(たぶん)罪にならないのは何故だろう」(どっちもショッキングなのに)という一文。内臓は…それは事件性がありそうですね…。