講義を聞くのは久々でした。
こちらを聞いてきました。もちろん、人形というテーマに惹かれてです。
講師の吉良智子さんは日本美術史の研究者…から出発して現在はジェンダー史の研究者とのことです。
メモを取ったので、メモを観ながら、思い出したことを書いてみます。
明治以前の人形
ひとまず明治以前の人形の紹介で、菊人形、文楽、ひな人形と云った人形は伝統、鑑賞のものであり、女子のものではなかったというお話から出発。ひな人形もステータス誇示のための要素もあり、女子の幸せを願う要素ばかりではないという説明がありました。
教育からやってきた
人形が女子に与えられるようになったのは明治の良妻賢母教育から。近代における母の役割の教育として女児の世界に人形が登場します。
アメリカの教科書を翻訳したものですが、女子には人形を持たせた挿絵があります。
明治期に女子は人形で遊ぶものとなり、人形の着物を洗うという話が教科書に登場するのですが、家事育児は女の仕事である…というシミュレーションという要素を果たす存在になっています。
『幼女界』という明治30年代の子供向け雑誌の表紙は人形を抱いた女児という図式で、女児と人形には類似性が観られることが指摘されていました。
他にも『幼年倶楽部』という雑誌(これは何年代かメモし忘れ…)の表紙は戦艦を持った男児と人形を持った女児が描かれていて女児の持ち物に人形というイメージはかなり固定されているようです。
戦争と人形
時代は進み、慰問人形の話。
『少女の友』にて中原淳一(この方は人形も作っていましたね)による人形帖というタイトルで慰問人形作りの指南記事が紹介されました。
作る人形は『少女の友』の松本かつぢによる「くるみちゃん」がモデルでした。
さて、この兵士に送られた人形はどうなったかというと…記念撮影をしたり、コクピットに置いて一緒に出撃したり、それなりに可愛がられたようです。
…この辺は守備範囲かと思っていたのに知らなかったです。
逆に帰ってきた人形というのもあり、兵士の元に送られるも、兵士がお礼の手紙を書いて少女に返したそうです。ちなみにこの人形は靖国神社の遊就館で見られるとのこと。
戦後:女子は人形の消費者になるも…?
話が飛んで戦後に。
ミルクのみ人形の紹介からバービー人形、リカちゃん人形の話になります。
女児の世界における人形は教育として与えることから始まりましたが、戦後は女子が好きそうな人形を大人が提案するという形になります。
リカちゃん人形自体は縁あってリカちゃん人形展に行った際に「日本の住宅事情に合うコンパクトで可愛い人形を作ろう」という内容のアニメ映像を観たのですが、日本の女児の好みに作るのに試行錯誤したプロジェクトXでした。
こうしたプロジェクトXも経て可愛い人形として市民権を得た人形は女児において「正しい人形」と紹介されていました。
では、正しくない人形とは…?となりますが、女児が好みそうな人形で妊娠した人形というのが登場します。
先に紹介されたのがバービー人形…厳密にはバービーのお友達のミッジ人形がお腹が膨れていて、中に赤ちゃん人形が入っていて、お腹が取り外し可能というものという話でした。
発売時に大変なバッシングを受けたそうです。理由は未婚の母を連想させるからとのこと。夫の人形がなく(あちらはカップル文化なのでバービーにはケンがいるようにペアが必要)、結婚指輪がないというのが根拠にされたので、後にウォールマートがファミリーを連想させるパッケージにし、夫の人形も発売したとのこと。
一方でビッチメイクで10代の妊娠をイメージさせるバービー人形もあったという話もさらっとありました。
バービー人形(厳密にはミッジ人形)が妊娠しましたが、リカちゃんはというと…ママになったリカちゃんというのもあります。お腹が膨れています。
こちらは人形に付属しているはがきを送ると赤ちゃんの人形と膨らんだお腹を外すカギを送ってもらえるもので、「日本の性教育事情に適合した設定」と紹介されていました。
…以上がメモから起こした授業の内容ででしたが、メモに「少子化しつつも、正しくない妊娠は排される。妊娠は個人の出来事である。妊娠できる体だが妊娠してはいけない」などの言葉が残っていました。
もともとこちらの本に寄稿した話をより発展させたものらしいので、メモ書きの意味を思い出すためにも読みたいです。
質疑応答
Q.ママになったリカちゃんの当時の反応は?
A.見つけられなかった。
Q.男児向けの人形は?
A.教育的な部分が少ないので、教育的なアピールをした男児向け人形がない
(ただその後GIジョーがベトナム戦争時に発売されたと指摘があり、教育的側面はあったのでは?という話もあった)
Q.女児向けの人形を与えたところで親と子で反発はないのか
A.あると思う。娘にリカちゃん人形を買い与えたが、すぐ飽きてしまった(着せ替えが面倒だったらしい)
他にも人から聞いた話でリカちゃん人形の髪の毛をすべて抜いて、水鉄砲みたいにしてしまったという話もあった(すげーな…)
Q.男子の人形はあるのか?
A.売れないので少ない。アメリカはカップル文化なので、対にしないといけない。
Q.バービーやリカちゃんは親にどう浸透したのか。マーケティングでしょうか?
A.マーケティングだと思うが、不明…とのこと。
Q.良妻賢母にあてはならない少女像もあったけど…?
A.読者をどの階層向けにするかで変わる。『少女の友』は都会の中産階級向けだが、『少女倶楽部』は地方向け。人形も出てくる。このように人形の扱われ方も違う。
(余談ですが、我が祖母が読んでいた少女雑誌は『令女界』で、こちらは身の上相談もあり軟派な女子が読むようなものだったと本で知りました。軟派だったのか、我が祖母)
Q.容姿が良いのを「人形のようだ」というのはいつから?
A.青い目の人形交流以降?1920年代では?
(これはほかにもあるような気がしている)
終わりに
人形というテーマに惹かれて参加しましたが、ジェンダーの分野から人形が取り上げらていたので、新鮮でした。
元々、TwitterのRTで流れてきて知った講義なのですが、RTした方が「男性の人形コレクターに『なんでそんなことをしているんですか?』と女性が聞いているのを聞いてしまった」というコメントをしていたこともあり、断然興味を持ったのでした。
…結果として全然違ったんですけど、それでも、話自体はとても楽しんできました。
人形と妊娠で思い出すのは、私の守備範囲だとベルメールの人形です。友人から「ナチスに反発するために作ったもので女性の形をしているけれども生殖しないし、労働もしない」という話を聞いていたので、私が所有するジャンルの人形に関しては特に…ですが生殖とは切り離された存在という認識が強いかと思います。
しかし、女児向けの健全な人形で妊娠が扱われるととても戸惑いますね…まだうまく言語化できないのですが、上記の本を読んでまた考えてみたいと思います。