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本、人形、素体

カニバリズムから始める人類学『人喰い』

タイトルで惹かれて読んで収穫がそれ以上にあると嬉しいですね。

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

 

読了。

インドネシアで原住民に食べられた(!)とされるマイケル・ロックフェラー失踪事件のドキュメンタリー。

米国人が文化に魅せられたり、事件の取材でインドネシアにやってくるのはロックフェラーも著者も同じ。ただ、そこにどの程度相手への敬意があるかの違いが時代の違い以前に大事な気持ちになる。著者は現地での取材の数か月後にインドネシアの言葉を学んだうえで1ヵ月ホームステイをするのだけど、その中で現地の食べものを食べて、カミキリムシの幼虫(現地では重要な食品)を食べて、現地で好まれる理由を知るという経験をしている。ロックフェラーはプリミティブアートと称して色々買っていたり、土産物用じゃなくてだな…と本物嗜好があったようだけど、その中で敬意はあったのかな…という疑問が生まれるなどした。

 

タイトルに『人喰い』とあるので、カニバリズムの話がメインかと思いきや、現地での取材と再現映像的な文章が交互に書かれ、ホームステイの部分などは文化人類学におけるフィールドワークになっている。

フィールドワークの中でモンド趣味ではないものを身に付けていく様子があり、これってドキュメンタリーにおける醍醐味なのかな?となるなど。

勝手に同じカテゴリーにしているドニー・アイカー『死に山』も米国人とロシア人の交流の話になっている部分も多かったのよね。 他にも取材をしても「その言葉が信用できるか」という問題が共通している。『死に山』では陰謀論に染まっていて、ダメだコリャになったのに対して『人喰い』では文化的な理由「いってはいけない」に阻まれたり、こっちが望むような話をしてしまったり、という理由の違いはあるのだけど。

 

そして『人喰い』の監修をしたのは『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』の奥野克己。他にも本文で『銃・鉄・病原菌』がちらっと出ていて、思い掛けなく予習の上で読めました。予習というほどではないけど、過去に読んだ本と繋がるのは嬉しいですね。

 

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おまけ

カニバリズムについてはそれほどあるわけではないのだけど、取材の結果書かれた再現解体のパートがある。まずは心臓に槍を突き刺し、頭を叩き、首を落とす。解体は肛門から首まで切り裂き、胴体の片側→わきの下→鎖骨を通って喉で反対側も同じく。肋骨をたたき割って、中から押し広げる…とあるので、開きみたいにするのかな。

その後、手足を落として内臓も引っ張り出すとのこと。

著者が現地でカミキリムシの幼虫を食べたときの事を豊かな味と脂肪の体液が迸った…とあり、カニバリズムもまた貴重な食品だったような気持になるのはつなげすぎかしら…。

 

殺すことは主張すること、所有すること、奪うことだ。

どこにもつなげられなかったので、こちらは単独でポツンと引用しておきます。忘れないために。