衛生ゴアグラインド

本、人形、素体

氷三部作『氷』『ブロの道』『23000』

ソローキンの氷3部作『ブロの道』『氷』『23000』を読み終えました。

 

 

氷: 氷三部作2 (氷三部作 2)

氷: 氷三部作2 (氷三部作 2)

 

金髪碧眼の人を氷で出来たハンマーを叩くと仲間がわかるというカルト集団に狙われた人たちとある人物の過去など。

表現の手段に小説を選んだアヴァンギャルドな人だと思っていたら、本作はちゃんと小説になっていて良い。あと、ある人物の着替え描写が乙女チックな事になっていて思いがけず◎

どのぐらい乙女チックか引用しておこう。

 彼女たちは私の髪を切った。きれいに梳いて、いい香りがするものを塗った。それから手足の爪を切り、やすりで整えていく。蹄鉄を打つときの馬の蹄そっくり!なんとか笑いを堪えながら、私は理解した。これがドイツなのだ!

 それから二人の女性は私に服を着せにかかった。ローブを脱がせ、戸棚や箪笥から色々な衣服やワンピース、色とりどりのペチコート、ズロース、ブラジャーを取り出した。そしてずらりと並べた。どれもすごく美しくて、清潔で、真っ白!

 まずはブラジャーのサイズを合わせた。私のおっぱいはまだ小さかった。彼女たちは一番小さなブラジャーを選んでつけてくれた。すごい!私の村では大人の女の人がブラジャーをするなんて前代未聞だったのに、小さい娘がブラジャーをするなんて!こんなブラジャーを見かけたのはジズドラやフリュピノの農業消費組合(セリポ)だけで、そこにはワンピースや織物なんかもあった。

 それから白いズロースを穿かされた。人形が穿いているみたいな、短くてかわいらしいズロース。その後、ズロースにストッキングを留めてもらった。そしてすぐその上から、短くて白いペチコート。素敵!全部レースで、甘い香りがする。どれもきれいで、言葉を失う。その上からワンピースを着せられた。青くて、白い襟が付いている。お次は靴選び。開けた箱の中身を見せられるたびに、もう驚きの連続!編み上げ靴でも、ブーツでもなく、本物の短靴で、ワニスでキラキラ光っている!選べるように三つの箱が用意されていた。私は頭がくらくらした。指差して、靴を足に履かせてもらう。ヒールの付いた靴だ!

 彼女たちは私に口紅を塗り、頬紅をつけた。首に真珠のネックレスを掛けた。私は立ち上がり、鏡に映った自分の姿を見た―思わず顔がほころぶ!すごい美人、まるでワーリャ・サムシコワじゃないみたい!

 ここだけ妙に嶽本野ばらの小説みたいになっていますが、本編は別に乙女チックな服を着た女子が服について語ったり、ヤンキーと友情を育んだり、うっかり雑誌に乗っちゃってクラスメイトからからかわれたりしたりはしないので、ご安心あれ(?)。

 

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

  

シベリアに落下したツングース隕石は実は神秘の力を持つ氷で、それに触れた主人公は目覚め、ブロという真の名前を得て23000人の仲間を探すことに…という『氷』の前日譚。氷の一族ではない人を肉機械と称し描写する様子は圧巻。割と映像向きな気がするけど、映像化とかされないんだろうか…。

 

23000: 氷三部作3 (氷三部作 3)

23000: 氷三部作3 (氷三部作 3)

 

氷のハンマーで胸を撃つカルト教団の被害者が出て来て完結に向かう回。被害者の会とかウェブサイトがあるとか、肉機械呼ばわりされていた人間のターンはグッときちゃうね。ずっとカルト教団のターンだったから余計に。 そして、話がちゃんと終わっていてびっくりした…。

日本が舞台のエピソードがあるのですが、新宿なのに、ハチ公前で待ち合わせ、ルーズソックス履いたコギャルのミサトちゃんへのプレゼントは伊勢丹で買ったポケモン椎名林檎のCDとタイタニックのDVD、そしてスイスのチョコレート!…いつの話だよ!ってなったら、2005年だった。がんばったね!

コギャルには浜崎あゆみじゃないんだ…と思ったけど、椎名林檎というセレクトがソローキンっぽいし、他にも「デヴィッド・リンチが『ピクニックatハンギングロック』をリメイク」ということで金髪碧眼を集めるとか所々でなんだかこう、何かを察しますね…。

あとモグラ人間についてはアイディアをどっかの小説で使ったりしていないかな…あの文章、読みにくかったけど。

 

 

何かを乗り越えた気持ちになりましたが、別に何も乗り越えていないと思います…。

本当は冬休みに読破するはずだったのですが、時系列で最初に当たる『ブロの道』が手元に来なかったので、執筆順、刊行順で『氷』→『ブロの道』で読みました。これはなかなか正解だったはず…。