衛生ゴアグラインド

本、人形、素体

人形と生きたあの頃『人形大使』『禁断の百年王国』

人形関係の本を読みました。

人形大使―もうひとつの日米現代史

人形大使―もうひとつの日米現代史

 

読了。

渋沢栄一も関わった日米人形交流うち日本からアメリカへ送られた答礼人形について。メインは著者が現存する答礼人形すべてを観てのレポート。

やっぱり人間自分でしっかり動いてこそだよね…と作者の行動力に感動した。

日本へ里帰りして展示された人形への感想が「とてもかわいい」「穏やかな顔」「うれしそう」と好評だったり、人形が出国前行ったイベントに参加した人が思い出を語ってくれるなどポジティブな話題が嬉しい。

人形は怪談で消費されまくった存在だけど、顔立ちは皆可愛らしいのよ。

著者が答礼人形への思い入れが端々に感じられる。人形に語らせる文章が登場して、ふふっとなる所もある。人形は持ち主をお母さんっていうのか…私も一時期、うちの人形にお母ちゃんって呼ばせていましたけど、そういうもんかー(友情人形で「ママー!」って云うのがいるからだと思うけど)。

 

答礼人形のうちミス愛媛がハリケーンで喪失、現存していたのはぽっくり一足だけで、別の答礼人形研究者が「日本で自殺する人は履物をぬぐ」と伝えたところ、人形を所有していた方から「それはアメリカもです」と返されて沈黙してしまった話がダークツーリズムしていて、しんみりした。

 

禁断の百年王国―少女人形論

禁断の百年王国―少女人形論

  • 作者:増淵 宗一
  • 発売日: 1995/07/01
  • メディア: 単行本
 

読了。

明治期の良妻賢母教育のために少女には人形…から始まった少女と人形について。

著者はリカちゃん人形の研究者なので、もちろんリカちゃんの話題も多い。

この本は25年前の本で最後に「かわいい価値は拡大するのか、新たな価値観が生まれるのか…」とありましたが…前者かな。

本文に出て来たジェニーの服の雑誌は母がバザー用にジェニーの服を作るから…という理由で我が家にありました。私のジェニーはなかったのに。

人形以外の話題としては、かわいいの拡大として言葉で不気味+キュートで「ぶキュート」という言葉が出て来たけど…そんな言葉、あったの?

話題が脱線しましたが、人形と少女では、源氏物語で10歳の紫の上が人形遊びをしていて窘められる話があり、小道具も豊富に持っていた話があった(これは知らなかった)。他国でもドールハウス(1/12サイズ)の話もあり、お姫様はミニチュアや人形が好きとまとめられていて、ふふっとなった。雛祭りは江戸時代から商業ベースで進められていて、幕府が「雛道具が華美になりすぎないように」とお触れを出したそうなので、熱心な人がいたイベントの様子。 明治期に教科書で雛祭りを持ち上げたり、百貨店がこぞって雛人形を売り出した話もあったので、人形含むミニチュア的なものは商機なのだな…という気持ち。

最強の18人+α『マゾヒストたち』

世の中にはすごい人たちがいるもんです。

マゾヒストたち: 究極の変態18人の肖像 (新潮文庫)

マゾヒストたち: 究極の変態18人の肖像 (新潮文庫)

  • 作者:松沢 呉一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/10/27
  • メディア: 文庫
 

読了。

M男さんたちへのインタビュー集。SM雑誌での連載だったそうですが、新潮文庫から出ている本なのですが、こういう所から出してくれるの、いいですねー。

M男歴が長すぎて乳首も長くなったM男さん、馬になるM男さん、監禁されるために失踪、金玉蹴りされる方のマニア、尿が好き、食糞…など、ハードなフェチシズムをお持ちの方が多く、他にもそれは聞いたことが無い、今知りました…な話も多し。ちょっと踏まれたい、痛いのが好きぐらいだとMとしてレベルが低いんじゃないかと思うくらいレベルが高い、日本でも最強(?)のM男さんが揃っています。今後読む小説の変態描写の甘さにさらに激怒できるようになりますね…*1

 

目次を見て「会ったことがあるM男さんが一人いるなー」と思って読み進めたら、もう一人知っている人がいました。どちらもお元気かしら?ちなみにお会いしたことがあるM男さんですが、一人がフェティッシュバーで出会った乳首が発達したM男さん、もう一人は行きつけのご飯屋さんで出会いました。たまに誤解されるけど、私はSMの人ではないです。

ご飯屋さんで会ったM男さんは、盲目のM男さんで、私が作ったザッハトルテを食べて「可愛い女子とフルーツは鉄板ですよ!」と大喜びしてくれたそうです(その場には私はいなかったので、また聞き)。

ご飯屋さんでたまーにお目にかかる程度なので盲目のM男さんがピアノが弾けて留学経験もあるのは初めて知りました。この本を読んだ後に行きつけのご飯屋さんに行って店長に「あの方、すごい人なんですね…」と云ったら「読み上げ機能があれば将棋もできるよ」とまた新たな情報を頂きました。このインタビュー集、基本は10~15年ほど前なので、どのM男さんも元気か気になったのですが、盲目のM男さんに関してはプライベートも充実されているという話を聞いたので何よりです。

 

インタビュー以外にもコラムがあるのですが、そこでインパクトがあったのは中国人のM男さんの話。希望したプレイが731部隊の女兵士に人体実験されるプレイだったとあり、大変複雑な気持ちになったのですが、当の女王様も複雑だったご様子だった。女王様は「旧日本軍に女兵士はいない」と説明したそうですが…結局、マルタプレイはしたとのことでした。

*1:ある小説でうんこ食わせる描写に対して「うんこを食べるのにはコツがいるって聞いたのに、何平然と食わせているんだよ」とわけわからない怒り方をしたことがある。と、いうのは過去に友人(食糞経験あり)が「食べている最中にむせると臭い」と教えてくれたり、『消された一家』ではトイレットペーパーにくるんで飲み込む…という描写があったことから。この『マゾヒストたち』には、食糞のコツが書かれているので、くさい思いをせずに知識を得ることが出来ます。食べるというよりは飲み込むそうで、噛むと臭いから…ということだそうです。そしてM男さんは噛まずに飲み込むという技術を取得する練習をしたとのことですが…人生で使わずにすませたい知識は増えていくのだな…という気持ちになりました。

生きて帰れども『特攻隊振武寮』

過去の本と親子や兄弟に当たる本を読みました。

特攻隊振武寮 帰還兵は地獄を見た (朝日文庫)

特攻隊振武寮 帰還兵は地獄を見た (朝日文庫)

 

読了。

生きて帰ってきた特攻兵を待ち受けていたのは上官の心ない言葉と振武寮での軟禁生活!飯喰ってても詰られる様子がとても辛い…。

 

軟禁生活の話が大きなところではあるけれども、当然、軟禁に至るまでの話も多く、同じような学歴(ほぼ皆大学を出ている)の仲間たちとの交流や特技を活かす場面など、戦争の世でなければ…と思わずにはいられない和気藹々、希望があったはずだったのに…という部分多し。

飛行って技術だから、訓練中に死者が出ることがあって、同級生がお亡くなりになってしまった…というエピソードもあり、飛び散ったご遺体を素手で集めたり(手袋は飛行のためだから使っちゃダメって上官に云われる)、仏教系の学校を出た同級生がお経を上げてくれたりという話が妙にしんみりきた。

飛び散った臓器の話しから、臓器の中で丈夫なのは腸で、叩きつけられてもそのままの形で残っていたという話もしてくれて、「ホラー映画などで腸でアレコレするのは案外理に適っているのだな…」と変な方向の事も考えていました。

 

軟禁生活でネチネチ詰ってきた上官を呼び出して囲んで殴ろうかと戦後に呼び出して囲むもあんな鬼みたいな奴がこんなに弱って…とまるで無限の住人における槇絵と父みたいな話もあった。復讐って案外できないのはそんなこともあるんだと思います、たぶん。

 

この本は『不死身の特攻兵』から読んだのだけど、文庫本だったので、解説が鴻上さんだった。親子や兄弟みたいな本なのでこの人選はさすがです。

今回の本も鴻上さんの本も特攻の構図は鴻上さんがよくいう「世間と空気」みたいな話につながる部分は多く、「強要はしていないが、そうせざるを得ない」に追い込まれます。

罰せられない上官も多く、上司がダメなばっかりに現場の人間ばかりが損をする、そういう構図はなくしていきたいですね。

 

関連

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攻撃性は高いが品性は低い『あむんぜん』

本に応援されたくもないし、感動もしたくないけど、思いがけなくしんみりしちゃうのは悪くない。

あむんぜん

あむんぜん

 

読了。

短編集。表題作「あむんぜん」は脳味噌をつつくと超能力が使える少年の話。

ページ開いて一発目がサラリーマンがチンパンジーにレイプされる「GangBang The Chimpanzee」で、いきなり読者をふるいにかけてくる。その後も借金返済のためにスカト□ビデオに出演させられる女、意外な方法で薬を抽出させられる男、驚愕の方法で事件を解決する女、ヤベェ奴しかないドルオタ…と盛りだくさん!

攻撃性は高く、品性は低い…だが、それがいい!だって、平山夢明だもの。

Google口コミで「ご飯屋さんなのに、こんなに不衛生なのはありえない!☆1つも付けたくない!」と云われるか「すごく癖があるお店ですし、料理も癖があるけど、大好きです!自分にとって美味しい店の1つ!」と絶賛されるかのどっちかみたいなキタナシュラン系の飲食店みたいな作家だと思っています。

ただ、今回のは徹底して不衛生なので、好きと云いがたいが、読んだ人がいれば無言でニヤッと笑ってすれ違いたいそんな感じ。 トークイベントで、出版社のお偉いさんが「何でこんな下品な本をうちの出版社から出さないといけないんだ」と云ったそうだけど、そうですね…信憑性ばっちりですね…。

カニバリズムから始める人類学『人喰い』

タイトルで惹かれて読んで収穫がそれ以上にあると嬉しいですね。

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

 

読了。

インドネシアで原住民に食べられた(!)とされるマイケル・ロックフェラー失踪事件のドキュメンタリー。

米国人が文化に魅せられたり、事件の取材でインドネシアにやってくるのはロックフェラーも著者も同じ。ただ、そこにどの程度相手への敬意があるかの違いが時代の違い以前に大事な気持ちになる。著者は現地での取材の数か月後にインドネシアの言葉を学んだうえで1ヵ月ホームステイをするのだけど、その中で現地の食べものを食べて、カミキリムシの幼虫(現地では重要な食品)を食べて、現地で好まれる理由を知るという経験をしている。ロックフェラーはプリミティブアートと称して色々買っていたり、土産物用じゃなくてだな…と本物嗜好があったようだけど、その中で敬意はあったのかな…という疑問が生まれるなどした。

 

タイトルに『人喰い』とあるので、カニバリズムの話がメインかと思いきや、現地での取材と再現映像的な文章が交互に書かれ、ホームステイの部分などは文化人類学におけるフィールドワークになっている。

フィールドワークの中でモンド趣味ではないものを身に付けていく様子があり、これってドキュメンタリーにおける醍醐味なのかな?となるなど。

勝手に同じカテゴリーにしているドニー・アイカー『死に山』も米国人とロシア人の交流の話になっている部分も多かったのよね。 他にも取材をしても「その言葉が信用できるか」という問題が共通している。『死に山』では陰謀論に染まっていて、ダメだコリャになったのに対して『人喰い』では文化的な理由「いってはいけない」に阻まれたり、こっちが望むような話をしてしまったり、という理由の違いはあるのだけど。

 

そして『人喰い』の監修をしたのは『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』の奥野克己。他にも本文で『銃・鉄・病原菌』がちらっと出ていて、思い掛けなく予習の上で読めました。予習というほどではないけど、過去に読んだ本と繋がるのは嬉しいですね。

 

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おまけ

カニバリズムについてはそれほどあるわけではないのだけど、取材の結果書かれた再現解体のパートがある。まずは心臓に槍を突き刺し、頭を叩き、首を落とす。解体は肛門から首まで切り裂き、胴体の片側→わきの下→鎖骨を通って喉で反対側も同じく。肋骨をたたき割って、中から押し広げる…とあるので、開きみたいにするのかな。

その後、手足を落として内臓も引っ張り出すとのこと。

著者が現地でカミキリムシの幼虫を食べたときの事を豊かな味と脂肪の体液が迸った…とあり、カニバリズムもまた貴重な食品だったような気持になるのはつなげすぎかしら…。

 

殺すことは主張すること、所有すること、奪うことだ。

どこにもつなげられなかったので、こちらは単独でポツンと引用しておきます。忘れないために。

諸君、私は肉が好きだ『パスタぎらい』

今年の食べもの本枠を狙えそうな本がやってきました。

パスタぎらい (新潮新書)

パスタぎらい (新潮新書)

  • 作者:ヤマザキマリ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: 新書
 

読了。

 

イタリア在住歴が長い著者による食のエッセイ。イタリア料理、別にお洒落じゃねぇですよ、な話から日本食が恋しい!この国では、こんなものを食べたなどなど。

特に馬肉の話は私には一気に読むには官能性が高く、1回本を閉じました…絶対にこれは美味しいって話なんだもの…。

その馬肉の話しとは著者の姑による細切れにした馬肉を香草、トマトソース、ワインで煮込んだSpezzatinoというイタリアの肉料理、そして姑行き付けの馬肉屋で「生の馬肉の美味しさがわかるなら…」と出された馬肉の塊の表面にコショウとオリーブオイルを擦り込んで数時間置いたもの…という絶対に、美味しいに決まっている案件。

 先日姑と彼女が御用達にしている馬肉屋に肉を調達しに行った際、おしゃべりな姑は日本でも地域によっては馬肉が生で食されることなどを忙しそうにしている店主にべらべらとしゃべりまくった。すると、店主は大きな包丁を持った手をふと「生肉、喰うのか?」と問い質してきた。「生の馬肉の美味しさがわかるんなら、あんたにざひ食べてもらいたいものがある」と言って、店の奥から肉の塊を抱えてくると、それを薄くスライスにして私の手の平にのせてくれた。

 その肉屋の主人が秘蔵していた生肉は、大変美味しかった。肉塊の表面にコショウとオリーブ・オイルを摺り込んで数時間置いたものらしいのだが、肉とオリーブ・オイルの調和感が素晴らしくて、私は感動のあまりその生肉を分けてもらった。そして生の馬肉の美味さがわかりあえる者同士ということで、その店主と見つめ合って意味深にほくそ笑んでしまった。

 

この生の馬肉のところでエクスタシーか!ってほど興奮しましたし、肉が食べたくなりました。あー、肉欲とはよく云ったものだ。肉が食べたい欲の意味でも、官能の意味合いでも最高だ。

 

おにぎりなるものは日本以外の国では異様なものらしく、著者が列車で食べていたら「子供の頭みたいなものを食べている」呼ばわりされていた。そういう風に見えるんだ…。

他にも、イタリア人にナポリタンを食べさせた話や串焼きは美味しいなぁ…世界にはどんな串焼きがあるんだろう…と思って「串刺し」で検索したら残酷な画像が出て来て狼狽えたなど、盛りだくさん!

串刺しの件はイタリアはその…『食人族』を産んだ国ですから…と思うもルッジェロ・デオダート(イタリア人映画監督)の話は無かったです。

 

食人族 [DVD]

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串刺しです。