衛生ゴアグラインド

本、人形、素体

攻撃性は高いが品性は低い『あむんぜん』

本に応援されたくもないし、感動もしたくないけど、思いがけなくしんみりしちゃうのは悪くない。

あむんぜん

あむんぜん

 

読了。

短編集。表題作「あむんぜん」は脳味噌をつつくと超能力が使える少年の話。

ページ開いて一発目がサラリーマンがチンパンジーにレイプされる「GangBang The Chimpanzee」で、いきなり読者をふるいにかけてくる。その後も借金返済のためにスカト□ビデオに出演させられる女、意外な方法で薬を抽出させられる男、驚愕の方法で事件を解決する女、ヤベェ奴しかないドルオタ…と盛りだくさん!

攻撃性は高く、品性は低い…だが、それがいい!だって、平山夢明だもの。

Google口コミで「ご飯屋さんなのに、こんなに不衛生なのはありえない!☆1つも付けたくない!」と云われるか「すごく癖があるお店ですし、料理も癖があるけど、大好きです!自分にとって美味しい店の1つ!」と絶賛されるかのどっちかみたいなキタナシュラン系の飲食店みたいな作家だと思っています。

ただ、今回のは徹底して不衛生なので、好きと云いがたいが、読んだ人がいれば無言でニヤッと笑ってすれ違いたいそんな感じ。 トークイベントで、出版社のお偉いさんが「何でこんな下品な本をうちの出版社から出さないといけないんだ」と云ったそうだけど、そうですね…信憑性ばっちりですね…。

カニバリズムから始める人類学『人喰い』

タイトルで惹かれて読んで収穫がそれ以上にあると嬉しいですね。

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

 

読了。

インドネシアで原住民に食べられた(!)とされるマイケル・ロックフェラー失踪事件のドキュメンタリー。

米国人が文化に魅せられたり、事件の取材でインドネシアにやってくるのはロックフェラーも著者も同じ。ただ、そこにどの程度相手への敬意があるかの違いが時代の違い以前に大事な気持ちになる。著者は現地での取材の数か月後にインドネシアの言葉を学んだうえで1ヵ月ホームステイをするのだけど、その中で現地の食べものを食べて、カミキリムシの幼虫(現地では重要な食品)を食べて、現地で好まれる理由を知るという経験をしている。ロックフェラーはプリミティブアートと称して色々買っていたり、土産物用じゃなくてだな…と本物嗜好があったようだけど、その中で敬意はあったのかな…という疑問が生まれるなどした。

 

タイトルに『人喰い』とあるので、カニバリズムの話がメインかと思いきや、現地での取材と再現映像的な文章が交互に書かれ、ホームステイの部分などは文化人類学におけるフィールドワークになっている。

フィールドワークの中でモンド趣味ではないものを身に付けていく様子があり、これってドキュメンタリーにおける醍醐味なのかな?となるなど。

勝手に同じカテゴリーにしているドニー・アイカー『死に山』も米国人とロシア人の交流の話になっている部分も多かったのよね。 他にも取材をしても「その言葉が信用できるか」という問題が共通している。『死に山』では陰謀論に染まっていて、ダメだコリャになったのに対して『人喰い』では文化的な理由「いってはいけない」に阻まれたり、こっちが望むような話をしてしまったり、という理由の違いはあるのだけど。

 

そして『人喰い』の監修をしたのは『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』の奥野克己。他にも本文で『銃・鉄・病原菌』がちらっと出ていて、思い掛けなく予習の上で読めました。予習というほどではないけど、過去に読んだ本と繋がるのは嬉しいですね。

 

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hikimusubi.hatenablog.com

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おまけ

カニバリズムについてはそれほどあるわけではないのだけど、取材の結果書かれた再現解体のパートがある。まずは心臓に槍を突き刺し、頭を叩き、首を落とす。解体は肛門から首まで切り裂き、胴体の片側→わきの下→鎖骨を通って喉で反対側も同じく。肋骨をたたき割って、中から押し広げる…とあるので、開きみたいにするのかな。

その後、手足を落として内臓も引っ張り出すとのこと。

著者が現地でカミキリムシの幼虫を食べたときの事を豊かな味と脂肪の体液が迸った…とあり、カニバリズムもまた貴重な食品だったような気持になるのはつなげすぎかしら…。

 

殺すことは主張すること、所有すること、奪うことだ。

どこにもつなげられなかったので、こちらは単独でポツンと引用しておきます。忘れないために。

諸君、私は肉が好きだ『パスタぎらい』

今年の食べもの本枠を狙えそうな本がやってきました。

パスタぎらい (新潮新書)

パスタぎらい (新潮新書)

  • 作者:ヤマザキマリ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: 新書
 

読了。

 

イタリア在住歴が長い著者による食のエッセイ。イタリア料理、別にお洒落じゃねぇですよ、な話から日本食が恋しい!この国では、こんなものを食べたなどなど。

特に馬肉の話は私には一気に読むには官能性が高く、1回本を閉じました…絶対にこれは美味しいって話なんだもの…。

その馬肉の話しとは著者の姑による細切れにした馬肉を香草、トマトソース、ワインで煮込んだSpezzatinoというイタリアの肉料理、そして姑行き付けの馬肉屋で「生の馬肉の美味しさがわかるなら…」と出された馬肉の塊の表面にコショウとオリーブオイルを擦り込んで数時間置いたもの…という絶対に、美味しいに決まっている案件。

 先日姑と彼女が御用達にしている馬肉屋に肉を調達しに行った際、おしゃべりな姑は日本でも地域によっては馬肉が生で食されることなどを忙しそうにしている店主にべらべらとしゃべりまくった。すると、店主は大きな包丁を持った手をふと「生肉、喰うのか?」と問い質してきた。「生の馬肉の美味しさがわかるんなら、あんたにざひ食べてもらいたいものがある」と言って、店の奥から肉の塊を抱えてくると、それを薄くスライスにして私の手の平にのせてくれた。

 その肉屋の主人が秘蔵していた生肉は、大変美味しかった。肉塊の表面にコショウとオリーブ・オイルを摺り込んで数時間置いたものらしいのだが、肉とオリーブ・オイルの調和感が素晴らしくて、私は感動のあまりその生肉を分けてもらった。そして生の馬肉の美味さがわかりあえる者同士ということで、その店主と見つめ合って意味深にほくそ笑んでしまった。

 

この生の馬肉のところでエクスタシーか!ってほど興奮しましたし、肉が食べたくなりました。あー、肉欲とはよく云ったものだ。肉が食べたい欲の意味でも、官能の意味合いでも最高だ。

 

おにぎりなるものは日本以外の国では異様なものらしく、著者が列車で食べていたら「子供の頭みたいなものを食べている」呼ばわりされていた。そういう風に見えるんだ…。

他にも、イタリア人にナポリタンを食べさせた話や串焼きは美味しいなぁ…世界にはどんな串焼きがあるんだろう…と思って「串刺し」で検索したら残酷な画像が出て来て狼狽えたなど、盛りだくさん!

串刺しの件はイタリアはその…『食人族』を産んだ国ですから…と思うもルッジェロ・デオダート(イタリア人映画監督)の話は無かったです。

 

食人族 [DVD]

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  • メディア: DVD
 

串刺しです。

悲しみの記憶に触れる旅『ダークツーリズム入門』『ダークツーリズム』

ダークツーリズムというものを知ったので。

ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅

ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2017/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

読了。

戦争、虐殺、貧困、差別、核など負の側面を持った土地を観光するダークツーリズムとそれに適した土地の紹介。広島にあるうさぎが沢山いるおしゃれスポットが実は毒ガスを製造するため地図から消されていた時期があると聞き、断然行きたくなった。ガスマスクしたウサギグッズとかあったら欲しくなるけど、多分そういうものは無いんだろうなぁ…。 ダークツーリズムのスポットライトでは成田空港(成田闘争があったから…)と足尾銅山は行ったことがあります。

 

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

  • 作者:井出 明
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/07/30
  • メディア: 新書
 

読了。

さっきの本よりももう少し踏み込んでいる(文字がメインだしね)。

負の側面を持った土地を観光する…と書いてしまったけれども、悲しみの記憶を巡る、継承するのがダークツーリズムと云うのが正しいかな。

加害者の親族子孫もいるから、取り上げるのは慎重に、そしてダークツーリズムな場所かと思ったらそうじゃなかった場所(蚕糸産業)などもちゃんと載せていて、妙なところで好感度大。ダークツーリズムが浸透しやすく、プロパガンダに使用しようとした国もあったけど、そこはやはり国民以前に個人…上手くいかなかったという話も興味深い。思想のバランスや言葉選び、伝え方がフラットな印象なのでショッキングな場所を扱いながらも私は厭な印象を持たなかったのも良い印象。

人形作家の人の事『人形作家』

時間を置いて再読すると発見があるね。 

人形作家 (中公文庫)

人形作家 (中公文庫)

 

読了。

人形作家・四谷シモンの自伝。だいぶ昔に講談社新書で読んだことがあったけど、こちらは文庫版。書き下ろしで金子國義がお亡くなりになった事について触れている。私の知識が深まった結果、交友関係の記述が嬉しい。宇野亞喜良とか金井美恵子とか。

 

だいぶ前に読んだ割りには父親から絵の具を貰って捨てた話とベルメール人形を知って今までの人形の材料を捨てた話は覚えていた(後者は有名なのもあるけど)。

ベルメールの動く、動かせる人形に関連して内藤ルネが球体関節のアンティークドールを持っていた話があり、これは覚えていなかった…となりました。アンティークドールは管轄外なもので…あと、レザーやクロスボディだと思っていたよ…。

あと本当に個人的ではありますが、北区王子付近の話は「だいたいあの辺かな?」と見当が付くのがなんだか嬉しい。

それだけ以前読んだときよりも知っていることが増えたんだな…。

 

フランス滞在中のエピソードで、掃除をしてくれた女性にイミテーションの真珠のネックレスをプレゼントしたら、買い付けたアンティークドールに名前を付けてくれた話が出て来た。

名付けなるものは人形の個性の見分けが付くから出来るもので、「人形を愛するということは、そういう一見当たり前のなんでもないところに現れてくるのだと実感しました」と書いてある。人形への愛情は人それぞれだけど、こういうのはなんだか嬉しくなります…私は人形と暮らしているから。

繕い裁ち、教える人生『台湾少女、洋裁に出会う』

洋服と働く女子の話しなんだから、期待大。

台湾少女、洋裁に出会う――母とミシンの60年

台湾少女、洋裁に出会う――母とミシンの60年

 

読了。

日本統治下の台湾で日本の婦人雑誌『主婦之友』『婦人倶楽部』に付いていた洋裁ページと出会い、洋裁を独学で学び、お針子さんをしたり日本に留学したり、台湾で学校を開いたり、あれやこれやの洋裁人生!…を息子が語った本。

著者のお母さまが台湾人女性の洋裁教育にも力を入れていた様子は「働く女子の話ってグッときちゃうね…」という気持ちになるし、写真も時代を追うごとに素敵になっていく。

若いころのおめかしして楽しそうにしている様子も可愛いのだけど、晩年の姿もおしゃれさんなのがとても良い。やっぱり装う楽しみはあったほうがいいですよね。

 

台湾の政治的、歴史背景的な話は最小限なんだけど、やっぱり戦争の話は出てくる。あと意外なところでは統治下でも日本人になりたいとは思わなかったどころか、日本的な名前も強要されなかったとのこと。場所や立場によるのかしら?

あと、戦時中に強要されたモンペはクソダサいと思っていたようですが、それは台湾も日本も一緒のようでした。私もあれは厭だ。

 

意外なところでは日本の流行は欧米の後追いでありながら、少なくともアジアの女性向けに手直しがされていて、台湾の女性が日本のファッションをお手本にしたという話が出てきて、意外なところで評価されているんだな…という気持ちになりました。