好きな作家の本を織り交ぜつつ読書の秋です。
読了。
心に刺さる辛辣な箴言たちをフランス文学者で話題が多岐にわたる著者わかりやすく解説してくれる本。鹿島茂の本はわかりやすく、内容は興味深く読んでいて楽しく、読んだ後にちょっと賢くなった気持ちになれるので好きです。
気に入った箴言を少し引用します。
「批評はしばしば一つの学問ではない。それは一つの職業(メチエ)であって、それは創意よりも健康を、能力よりも修練を、天賦よりも習慣を必要とする」
「批評家には健康と修練と習慣が必要」ということですが、仕事も趣味もだいたいそんな感じですよね。量をこなさないと質の評価は難しいから。
「彼はチューリップの球根しか崇めない。さしあたって、その球根を、たとえ千エキュ出されたとしても絶対に他人に譲らないだろう。しかし、いずれ、チューリップがすたれて、カーネーションが流行ったら、そんな球根などただで人にくれてしまうことだろう」
偏奇愛(キュリオジテ)の話で出てくる箴言。キュリオジテは「稀であって、しかも流行っているある種のものに対する情念」だそうです。
そしてここから展開されるエッセイがアイドル・グループの中で地味で目立たないアイドルに熱を上げるオタクの話に展開していきます。
枠組み(今回の場合はアイドル・グループ)の中でなければレアさやユニークさへの熱狂も情念もないとのことで、追っかけとは、消費であり、自己実現という話にまで発展します。
他にもいじめをなくすにはそれぞれの得意分野で自己愛を満たしてやるシステムがいいけど日本じゃ無理、独裁者を選んでしまう理由は周囲の自分よりちょっとだけ幸せな人が妬ましいから、幸せも不幸も自己愛に見合う分しか感じないなど、人間とこの世が厭になると同時に身につまされます。
が、著者がそれなりに結論を用意してくれるのが親切。
あと今回学んだこととしては鬱の克服には外国語習得が良いとのことなので、今度鬱になったら思い出したいです。
あと最後に覚えておきたい箴言を一つ。
「ささいな屈辱などやりすごせ。そのほうが賢明だ。たとえ、復讐の喜びがどれほど大きくても、我慢することだ。掛け替えのないもの、すなわち自由でその喜びを買おうとすることは、あまりにも高い買い物になる」
やみくもに「復讐な何も生まない」と云われるよりはわかりやすいと思います。