衛生ゴアグラインド

本、人形、素体

精神科病院のちょっと事件ありの日常『緘黙』

好きな作家の本を選んで楽しいと嬉しい。

緘黙―五百頭病院特命ファイル (新潮文庫)

緘黙―五百頭病院特命ファイル (新潮文庫)

 

 読了。

3人の個性的な精神科医が15年間喋らない患者の治療をするという内容の小説。作者の他の著作同様、症例や文学作品がところどころ引用されていて、小説になってもやり方はほぼ一緒。

細かい描写が心地よく、3人の精神科医の描写に過去の著作や作者本人を思わす面もあって、この作家が好きで他の作品も読んでいたから面白いというのもあるかも。

 

蟹江医師の実家の鉛筆メーカーが出している「知恵の木鉛筆」についての話が好きなのでちょっと引用。

ナイフで削ると、この製品特有の香りがほのかに漂い、それはいかにも知性とか書物とかノスタルジーを連想させ、それどころか官能的とさえ思える匂いなのだった。それにモスグリーンの軸木とキツネザルのマークのチャーミングなこと!文筆家、画家、建築家など多くの人々にこの鉛筆は愛された。仕事を始める前の儀式としてまず知恵の木鉛筆をゆっくり削る、という人種が結構いる。

 といったわけで零細メーカーながら伝統的な製品としてこの鉛筆は指示されてきた。高価とはいえ、所詮は鉛筆なので、貧しい芸術家たちへの心の潤いをもたらしてもこれたのだろう。

 

医師たちが過去の著作を思い出させるので、思い出した過去の著作などを。

津森医師

優しく接してくれるような医師。比較的メインのように感じるし、作者に一番近い印象。声が良く、過去に食べた料理の味を再現できるという能力あり。家族仲はあまりよくなく、離婚歴あり。

「キモさ」の解剖室 (よりみちパン! セ) (よりみちパン!セ)

「キモさ」の解剖室 (よりみちパン! セ) (よりみちパン!セ)

 

中学生向けの本。この本で「患者さんは自分がなっていたかもしれない姿」語るのが津森医師とだぶります。

 

 

大辻医師

東大出身のエリート医師。背は低いが男前。メディアへの出演も多数ながら、負い目のある過去もある。

華やかな職業の女性をパートナーに選びがち。今はアナウンサーの女性と付き合っている。食へのこだわりはあまりない。

鬱屈精神科医、占いにすがる

鬱屈精神科医、占いにすがる

 

大辻医師はこの本に出てきたエピソードを思わせる話がある。

著者が「容姿が悪いので自慢の息子になれなかった」と嘆くので、顔の良い大辻医師のエピソードに採用するのは丁度良いかなと思いました。

 

蟹江医師

車を乗り回したり、リコーダーを吹くのが趣味。文学少女ペンネームで作品が乗ったこともあるけれどもペンネームは教えてくれない。スエロニスム・ボス「愚者の治療」を控室に貼っている。

 

幸福論 ―精神科医の見た心のバランス (講談社現代新書)

幸福論 ―精神科医の見た心のバランス (講談社現代新書)

 

 

斜に構えた話ばかりなのですが、珍しいものを見たことを世界の仕組みを観たと表現するなど「確かにそれはちょっと嬉しい」と思う話が多々ある。 独自の楽しみを持っている蟹江医師はこの本のイメージが強いかなと思いました。