衛生ゴアグラインド

本、人形、素体

服従と抵抗『人形つくり』

久々に掘り出し物を見つけた感。こういう時にいい仕事していますね…と勝手に鑑定団になってします。

人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)

人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)

 

読了。

外国人の子供の家庭教師を務めることになった女学生の不思議な手記と顚末「リングストーン」、女学生と木彫りで人形を作る青年の物語「人形つくり」を収録。

「リングストーン」では終盤に体操着の女子へのフェティシズムが、「人形つくり」では服従マゾヒズムがあふれていて、サーバンの変態性がしっかり出ていてかつ作風は丁寧で品がある。

ちなみにサーバンはイギリス人で本職は外交官、出身は炭鉱町で労働者階級。変態性あふれる作品を少数だけ残した作家だそうで「イギリスの団鬼六というわけではない」「拘束具が好き」…というのは国書刊行会の冊子からの情報。

本に収録されている解説によると数少ない邦訳『角笛の音の響くとき』では全裸に羽や毛皮を纏った女性を狩るシーンがあり、「わたしが女性に求める種類の歓びは実行が不可能」という言葉を日記に残していたり、木製の関節付きの人形を自ら制作するなどかなりの変態のご様子。…悩む前にフィティッシュバーとか来ればよかったのにね(たぶん、当時はなかったのでは…)。

 

少し作者の話が長くなりましたが、今回「人形つくり」に関しては私は人形になりたい系のM女ではないので、ハマらなかったものの、好感が持てる作品ではあった。

下記はネタバレ含む感想。

 

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これもまた刑務所の中『刑務所しか居場所がない人たち』

 読書メーターで知って絶対に面白いと思ったら、やっぱり楽しい読書になった。

刑務所しか居場所がない人たち : 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話

刑務所しか居場所がない人たち : 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話

 

読了。

刑務所に収容されている軽度の知的障害者と福祉の欠点を子供にもわかりやすく読みやすくしたもの。優しく書かれているものの読み応えあり。

大人たちが「昔は良かった」と懐かしんでいる映画『ALWAYS 三丁目の夕陽』や『となりのトトロ』の舞台になった昭和30年代はものすごく殺人事件が多かった…という文章のこのわかりやすく、そして別に良くは無かったですよーという感じの文章、好き。ちなみに殺人事件での死者は昭和30年が2119名に対し、2016年で289名なので、かなり減少しています。

 

取材で会った受刑者との会話で刑務所でいた時に覚えたスラングを使ったら心を開いてくれたという話がありました。この著者の『獄窓記』のドラマ版を15年ほど前にみたことがありますが、刑務所での暮らしの中で軽度の知的障碍者との関わりで変わっていく場面があったのを思い出しました(このことも本の中にありました)。その後ずっと福祉に関わっていたんですね。思わぬ再会のような本でした。

 

刑務所の中 (講談社漫画文庫)

刑務所の中 (講談社漫画文庫)

 

タイトルに使った刑務所の中とはこの本の事。

『刑務所しか居場所がない人たち』でも『刑務所の中』でも「シャバに出るのが怖い…」という話は出てくる。

刑務所の中』で「罪人なんて粗末なもん食わしておけばいいのに」という趣旨のセリフが出てきましたが、『刑務所しか居場所がない人たち』で刑務所の中の年中行事は社会性を身に付ける教育としての行事とあり、思わぬアンサーがありました。

2018今年読んだこの本がすごい

Twitterで先に書いてしまったけど、今年読んで面白かった本。

感想を書いた本の方が多いので、リンクも貼りました。

 

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから

 

強制わいせつ事件を元にした小説。被害に遭う女性が可愛げがあり好感が持てる人物として書かれているだけあって、叩くなんておかしいよ!という作者の姿勢と、数少ない身内が庇ってくれる様子に救いがある。

私が堕ちずに済んだ地獄『彼女は頭が悪いから』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

悪の箴言(マクシム) 耳をふさぎたくなる270の言葉

悪の箴言(マクシム) 耳をふさぎたくなる270の言葉

 

安心と期待の鹿島茂。今回は箴言。辛らつな言葉は幸せにはしてくれませんが、己を律するのに役立ちます。

幸せにしてはくれないが、己を律する『悪の箴言(マクシム)』 - 衛生ゴアグラインド

 

 

京都ぎらい (朝日新書)

京都ぎらい (朝日新書)

 

京都は好きだけど、ありがたがるものどうかと思う…と云うところに現れたこの本!

京都洛外出身の著者が割と本気で恨みつらみを書いていて、それが心地よいという変な本。

洛中洛外冷戦『京都ぎらい』 - 衛生ゴアグラインド

 

タイトルが最高にいいですね!

日本語の使い方にあれこれ解説したり、支那という呼称について考察する真面目な話もある一方、李白杜甫についてすごくわかりやすく解説した話や、記録型の変態についての話がとても読ませてくれる。その一方で滋賀での一人暮らしや文筆業の年収と支出の話が妙に世知辛い。

知ってるから言いたくなっちゃう『本が好き、悪口言うのはもっと好き』 - 衛生ゴアグラインド

春望物語 - 衛生ゴアグラインド

 

 

サイコパス解剖学

サイコパス解剖学

 

春日武彦平山夢明が語っているんだから、不謹慎面白いに決まっているでしょう…という本。よって良識的な人はやめておいた方がいいと思います。

キ印の話をしようぜ!『サイコパス解剖学』 - 衛生ゴアグラインド

 

倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)

倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)

 

ミステリーをミステリーとして楽しむ感性に欠けているので、皆川博子少女小説として読みました。終盤で明かされるある人物の関係性にニンマリ。

長らく読みたかった本でしたが、友人との待ち合わせの時間つぶしに入った新古書店で保護したので読めました。

現実対虚構『倒立する塔の殺人』 - 衛生ゴアグラインド

 

夜想#中川多理: 物語の中の少女

夜想#中川多理: 物語の中の少女

 

現時点で最新刊の夜想であると同時に中川多理さんの作品集でもある本作。

装丁や印刷に拘り抜いて作られていて、久々に手元に置いておくことで喜びを感じられる本。

物語の中の少女と題し、幻想文学に出てくる少女を中心に人形化したシリーズたちは本が好きで人形が好きな私には本を読む楽しみと人形を愛でる楽しみを同時に与えてくれました。

うちのりーぬも載っております。

 

 

7冊挙げて4冊は今年出た本だったので、なかなか上出来だった気がします。

また楽しい読書ができますように。

今年読んだ本の事

今年読んだ本を数えたら126冊。

青空文庫の短いものや写真集要素が強めの本、ユリイカみたいなムック本もあるけど、100冊は超えたと云えるかな。よく読んだなぁ。

面白そうな本を選ぶようにして読んでいたら結果この数という感じ。今年は本が読める脳みそが続いてよかった。

今年読んだ本の数は多かれども、内訳はまあまあ面白い本が大半で面白い本は稀。

縛り読書をしなかったのでつまらない本を引き当てる確率は減りました。縛り読書は「新潮文庫の100冊のうち読んでいないものを読む」などテーマを決めてやるものですが、あれは対象読者が自分ではない本に当たると苦行になるので、今後はしないでおきたい。

 

さて、自分にとって面白い本を探すコツはお気に入りの書評家や読書家を見付けることだと思う。

私の場合は鹿島茂都築響一春日武彦の3名は期待している。あと鹿島茂の事務所のALL REVIEWSは流し観していると読みたい本が増える…と聞かれていないけど語ってみるなど。

2018年ベストは明日詳しく書きます。

 

人形たちとクリスマス

クリスマスっぽい写真を撮りました。

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あまり人形たちを使って幻想的な何かというよりは、人間と暮らす人形という感じでお送りしております。

りーぬが心なしか不満げなのはブッシュ・ド・ノエルにできないツリーだからかしら?

 

 

読書する喜び『夜想#中川多理—物語の中の少女』出版記念展・京都巡回展

夜想#中川多理—物語の中の少女』出版記念展・京都巡回展の感想を書いていないのを思い出したので、その感想。

 

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少女とあるけれども、今回は男子率高め。ただ、男子という創作人形では比率的に多くはない造形で見せてくれることにより、作者の造形力や表現力の幅がかなりあることが感じられる展示になっていました。

特に青年の人形が4体あったので、今までの展示とはだいぶ毛色が違う。中川多理さんの少年ばかりの展示は過去のグループ展であったけれども(2013年のグループ展「Elpis」)、中川多理さんによる青年の人形は初めて。

新作の少女は小鳥シリーズと云われる侍女の姿をした少女たちと、夜想特装版のちびっこたち。少女の短髪率が高くて、特にうちのりーぬことマルスリーヌのちびっこVerが短髪だったので「うちのりーぬも短髪にしてもいいんですよ?」と思いました。私、短髪の美少女が好きなんです。りーぬを身請けするときに長髪だったのが気になっていましたが、長髪なので宇野亞喜良の女子っぽさもあるわけで…と、脱線するので、この話題はこれまで。

 

私が中川多理さんの作品を見始めた頃…過去の作品もありましたが、顔立ちの変遷が辿れるようで面白かったです。この頃はまだ中川多理さんの作品を身請けするとか考えていなかったなぁ…と一人で感慨深くなっていました。

 

 

さて、物語の中の少女シリーズは2015年から始まり、2回目ぐらいから展示より前の時点でどの作品から人形を作るかわかるようになっていました(たしか、1回目は直前に発表だったはず)。

特に今回は展示の前にメルマガでリストアップされていました。

今回は下記の通り。

 

三島由紀夫『癩王のテラス』

アントナン・アルトーヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト

服部まゆみ『この闇と光』

山崎俊夫『耶蘇降臨祭前夜』

山尾悠子『角砂糖の日』

 

…こうして書いてくださったのだから、予習していくに越したことはない!というわけで、私は『癩王のテラス』と『この闇と光』を予習して挑みました。

 

決定版 三島由紀夫全集〈25〉戯曲(5)

決定版 三島由紀夫全集〈25〉戯曲(5)

 

『癩王のテラス』が絶版なので、全集で読むという暴挙。

「癩王のテラス」は寺院の完成と反比例して王の美しい容姿が崩れていくも意外な勝利をみせる戯曲。

この作品からできた人形がメインに来ていたので、これは読んでおいて大正解だった。

全集自体は知らない話が大半だったのだけど、「聖セバスチァンの殉教」に関しては「本当にこの題材大好きなんですね!」と思うなどしました。

「子供のころ…『聖セバスチァンの殉教』ってありますよね…あの絵…画集で見たときですね。あの「セバスチァン」が矢を受けて傷付いている「肉体」…あれ…初めて見た時…なんていうかその…下品なんですが…フフ…射精…しちゃいましてね…」と三島由紀夫が思っていそうな作品だと認識しております。

 

 

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

 

 以前書いた感想はこちら↓

hikimusubi.hatenablog.com

これは実は肝心のところがネタバレしたうえで読みましたが、やっぱり予習してレイア姫を観に行ってよかったです。

造形が「たしかにこの人形はレイア姫だ」と思えるものだったので。

 

 

始まりの話

創作人形が好きな人は一体、どこから入ってきたんだろう?という呟きを見かけたので、何度目かわからないけど最初の話。

 

私の創作人形好きはヴィジュアル系バンドから…ヴィジュアル系バンドミニコミアプレゲールの人形特集が天野可淡四谷シモン吉田良なども紹介しつつ三浦悦子の初期の人形も紹介しているという先見の明ありすぎのラインナップでした(吉田良はなかったかも)。

存在を知ると同時に歴史も知れるというのは、ネットではない、書籍の強みだと思います。

 

ほかにもその前後で創刊された季刊エス(漫画家へのインタビューなどもあるイラスト雑誌)が天野可淡の人形の写真を掲載していたり、04年の東京都現代美術館球体関節人形展~DOLLS of INNOCENCE~」もあったので、ハマった時期に良いもの観られた感。

ただ、りーぬの身請けまでその後十数年の開きがあります。東京都現代美術館の展示の当時はまだ茨城に住んでいたので、頑張って上京して観に行きました。懐かしいなぁ。

 

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これは過去に載せたかな?

シーシャを吸うりーぬです。本文とは特に関係ありません。